小児外科

小児外科

小児外科のご紹介

小児外科は新生児から中学生頃までの子どもの病気を手術で治療する診療科です。対象となる疾患は、虫垂炎や鼠径ヘルニアといった比較的よく見られるものから、新生児期の先天的な消化管奇形や呼吸器疾患まで様々です。

子どもは小さな大人ではないとよく言われますが、実際成人と比べて同じような疾患であっても治療方法や手術方法は異なる場合も多く、その後の経過も長くなることがあります。また、高校生以上の患者様でも、小児外科特有の疾患の場合は小児外科で治療を行います。

主な対象疾患

鼠径ヘルニア、停留精巣、臍ヘルニア、急性虫垂炎、
腸重積症、難治性便秘症、肛門周囲膿瘍、耳前瘻孔、
正中頸嚢胞、直腸肛門奇形、胸部変形、小児固形腫瘍 など

小児外科の特色

京都田辺中央病院では、2020年11月から小児外科医が常勤となりました。当院でも小児外科の入院や手術ができるようになり、お子様やご家族の家に近い場所で治療を受けることができるようになりました。現在、年間約30例の手術を行っています。

しかし、新生児期の手術や大きな手術が必要なときは、設備の整った専門施設での治療が必要です。当科では京都府立医科大学小児外科と連携し、必要時には相談・転院搬送ができる体制を整えています。

安心して、お気軽にご相談ください。

主な病気と治療

鼠径そけいヘルニア・陰嚢水腫いんのうすいしゅNuckヌック菅水腫

病状と原因

一般に「脱腸(だっちょう)」ともいいます。生まれつきヘルニア嚢(ヘルニアの袋)が残っていることが原因です。この袋の中に腸や卵巣などが脱出して膨らみます。

袋の入口が大きいと腸や卵巣が出てきます。入口が細く狭いこともあり、その場合は腹水が入り、水のたまった袋(水腫)になります。

水腫は、男の子の場合は陰嚢まで膨らむので陰嚢水腫(いんのうすいしゅ)と言います。女の子の場合はNuck管水腫(ヌックかんすいしゅ)と言い、恥骨の横に水のたまった袋ができます。

鼠径ヘルニアの嵌頓(かんとん)

腸が出た時、入口にはさまって痛むことがあります。これを放置すると、むくんだ腸が出たまま戻らなくなり、腸の血流が悪くなります。これを嵌頓(かんとん)と言い、このまま長時間血流が途絶えると腸が壊死する危険があります。
そのため、出ている腸が戻りにくい時は押し戻す必要があります。出た腸を押し戻す整復処置は、難しくコツが必要です。待っても戻らない場合は医療機関を受診して下さい。そして、どうしても戻らない時には緊急手術が必要です。

手術の必要性と手術の時期

鼠径ヘルニアの袋は、生後6ヶ月頃までは自然に閉じて治る場合があり、乳児期は様子を見ることもあります。しかし、1歳をこえると自然治癒は難しく、手術治療が必要です。

また、脱出した腸が戻りにくい場合や何回も救急受診を繰り返す場合は、1歳を待たずに早めの手術を行います。

手術の方法

・従来法(Potts法、ポッツ法)

昔から行われている方法です。袋の根元の皮膚をしわに沿って1.5〜2cm切開します。精管や卵管などを確認し、袋を引き出して根元を糸で結紮、縫合閉鎖します。皮膚の創は溶ける糸で埋没縫合するため、抜糸の必要はありません。

・腹腔鏡手術(LPEC法、エルペック法)

この10〜20年くらいで普及してきた比較的新しい方法です。腹腔鏡を使って、お腹の中から観察しながら袋の根元を糸で結紮、縫合閉鎖します。この時、反対側にも袋が開いている場合は反対側も結紮、縫合閉鎖することができます。皮膚の創は溶ける糸で埋没縫合するため、抜糸の必要はありません。

当院での入院について

京都田辺中央病院で、小児の鼠径ヘルニア手術をする時は、2泊3日の入院で行っています。

2泊3日
・木曜日:昼1時頃に入院。体調の確認など。
・金曜日:朝9時に点滴、9時半頃から手術。全身麻酔後の経過観察。
・土曜日:朝10時頃に退院。

さいヘルニア

病状

一般に「でべそ」ともいいます。おへその中に腸が出てふくらみます。

臍ヘルニアの原因

出生後、へその緒が取れると自然に穴が閉じるのですが、閉じるのが遅れると、腸が出てきます。
また、自然に穴が閉じた場合でも、もともとのふくらみ方が大きかった場合は、皮膚のたるみや肥厚が残ることがあります。

臍ヘルニアの治療、手術の必要性

(1)自然治癒

出生後も自然に閉じる力は残っており、1歳までに8割、2歳までに9割の方は自然に治ります。

(2)綿球圧迫法

綿球をおへそに当ててふくらまないように押さえ、自然治癒をうながす方法です。後の皮膚のたるみを予防する効果もあります。ただし、生後6ヶ月を過ぎると効果は低下します。

(3)手術治療

1歳を過ぎても治る見込みのないとき、ふくらまなくなっても皮膚のたるみが残り出ているように見える時には手術治療が必要です。

おへそのしわに沿って、半円状に切開します。腹膜が伸びて袋状になってるため(ヘルニア嚢)、これを切除します。左右の筋膜を寄せて縫合閉鎖します。
皮膚の創は溶ける糸で埋没縫合するため、抜糸の必要はありません。

当院での入院について

京都田辺中央病院で、小児の臍ヘルニア手術をする時は、2泊3日の入院で行っています。

2泊3日
・木曜日:昼1時頃に入院。体調の確認など。
・金曜日:朝9時に点滴、9時半頃から手術。全身麻酔後の経過観察。
・土曜日:朝10時頃に退院。

停留精巣ていりゅうせいそう移動性精巣いどうせいせいそう遊走精巣ゆうそうせいそう

病状

停留精巣は、精巣が陰嚢内になく高い位置にとどまっている病気です。移動性精巣は、精巣が上下に移動し陰嚢内にある時やない時がある病気です。

停留精巣・移動性精巣の原因

胎児期に、精巣は腹部の奥で発生します。徐々に下に移動して出生までに陰嚢内におさまります。この途中で止まったものが停留精巣です。一旦下までおりても再度上がり気味になるのが移動性精巣です。正常でも精巣の移動はあり、寒い時や緊張した時には精巣は上がり、暑い時やリラックスした時には精巣は下がります。しかし、移動性精巣の場合は陰嚢内の固定が弱いため、上がるとなかなか下りてきません。

手術の必要性

(1)造精機能の低下

精巣の高い場所にあると温度が高めになります。この状態が続くと精子を作る能力が低下し、将来の不妊の原因になります。

(2)精巣捻転

精巣の固定が悪く、回転して血流が途絶えた場合に精巣が壊死する危険があります。

(3)腫瘍の発生

停留精巣がある場合は、精巣腫瘍の発生率は4倍と言われています。精巣が高い位置にあると腫瘍が発生した時に発見が遅れ、治療が遅れます。

手術の時期

上にあげた危険性を予防するとともに見た目の問題もあるため手術治療を行います。
手術時期は、将来の不妊を予防するためには1歳までに手術をすることが推奨されています。

移動性精巣の場合

また、移動性精巣でも、上がっている時間が長い場合や引っぱってもすぐ上がってしまう場合は、将来の不妊や精巣捻転の危険性があり、停留精巣に準じて精巣を固定する手術を行います。

手術の方法(精巣固定術)

精巣を陰嚢内まで引き下ろし固定する手術です。
鼠径部の皮膚を約2cm切開します。ここが精管や精巣血管の通り道になっています。精巣を一旦体外へ引き出し、精管や血管のまわりを剥離することで伸ばします。しっかり伸びたら精巣を再び中に入れ、陰嚢まで引き下ろし、糸で縫合固定します。

精巣の位置がある程度低めの場合や移動性精巣の場合は、下だけの切開で手術ができる場合もあります。

当院での入院について

京都田辺中央病院で、小児の精巣固定術をする時は、2泊3日の入院で行っています。

2泊3日
・木曜日:昼1時頃に入院。体調の確認など。
・金曜日:朝9時に点滴、9時半頃から手術。全身麻酔後の経過観察。
・土曜日:朝10時頃に退院。

急性虫垂炎

病状と原因

一般に「盲腸(もうちょう)」とも言いますが、実際には盲腸ではなく、その下の虫垂と言う部分の炎症です。行き止まりの袋状になっているため細菌が繁殖し、膿がたまります。炎症が進むと、穴が開いたり壊死するため菌が漏れ出て、腹膜炎を起こします。

急性虫垂炎の治療

(1)抗生物質

細菌を殺す抗生物質を点滴で投与します。近年は効果的な抗生物質が使われるようになり、近年ではほとんどの場合は抗生物質で治療が可能です。抗生物質が効かない場合は手術治療に移行します。また、抗生物質で治療できた場合の再発率は、20〜30%と言われています。

(2)手術治療

虫垂を切除することで、炎症の場所を除去します。抗生物質も併用します。

(3)手術を避けた方がいい場合

すでに虫垂に穴が開き、細菌や膿が漏れ出ている場合があります。広範囲の腹膜炎になると緊急手術が必要ですが、ほとんどの場合は、本人の治癒力によって膿は覆われて袋状になります。この状時に手術をすると、傷も大きくなり、合併症や後遺症も発生しやすいため、手術は避け、強めの抗生物質を使って押さえ込みます。また、炎症が虫垂だけでなく盲腸や小腸におよんでいる場合も、手術をすると広範囲の腸切除が必要となるため、抗生物質で治療します。

(4)待機的虫垂切除術

まず抗生物質で治療し、治癒してから2、3ヶ月以降に、炎症のない状態で手術をする方法です。再発が予防できることと、炎症のある時に比べ合併症や後遺症を減らす利点があります。

手術の方法

(1)開腹手術

昔から行われている方法です。
右下腹部を3〜5cm切開します。虫垂の周囲の癒着を剥離し、虫垂を引き出し、根元を糸で結紮して切除します。

(2)腹腔鏡手術

小さな傷で手術が可能で、虫垂も拡大して観察できるため、現在は虫垂炎と言えば腹腔鏡が主流になりました。
おへそと側腹部に数カ所の穴を開けます。各穴は5mm〜12mmくらいです。腹腔鏡を挿入し、腹腔鏡で見ながらお腹の中で虫垂を切除します。

(3)単孔式腹腔鏡手術

小児の場合は、おへそと虫垂の距離が短いため、おへそから虫垂を引き出すことができます。おへその1ヶ所の傷だけで手術が可能です。
おへそを切開し、腹腔鏡を挿入します。虫垂の周りを剥離したら、虫垂をおへそから引き出します。開腹手術のよう直接見ながら虫垂を切除します。

腸重積症ちょうじゅうせきしょう

病状

腸の中に腸が入り、腸が重なり戻らなくなる病気です。大腸の固定がまだ弱い時期、生後6ヶ月から2歳に起こる場合が多いです。
症状は、おなかが痛くなったり治まったり、痛みには波があります。また、重なった腸の粘膜から出血し血便が出ます。さらに時間が経つと腸の血流が低下し、壊死して穴が開き、腹膜炎を起こします。

腸重積の原因

原因の多くは、腸のリンパ節です。腸炎や風邪でリンパ節が大きく腫れると、食べ物を運ぶように送られてしまい、腸が重なっていき最終的に動かなくなります。

リンパ節以外の原因としては、ポリープやメッケル憩室や腫瘍などの病気の場合があります。これらは2歳以上の子どもでよく見られます。再発を繰り返したり、高圧浣腸では戻らないことも多く、手術が必要となる場合もよくあります。

治療の必要性

腸重積が起きた場合は、重なった腸を早急に押し戻す必要があります。放置すると食べ物が通らないだけでなく、重なった腸が壊死し穴が開き、腹膜炎を起こして命に関わります。

腸重積の治療方法

(1)高圧浣腸(非観血的腸重積整復術)

まず最初に行います。レントゲンに写る造影剤を混ぜた液をお尻から注入します。重なった腸が確認できたら、圧をかけていき腸を押し戻します。

(2)手術治療(観血的腸重積整復術)

高圧浣腸で戻らなかった場合や腸重積を繰り返す場合は手術が必要です。
右下腹部を横方向に切開します。重なった腸を引き出し、直接手で押し戻します。

難治性便秘症

病状

生まれたての新生児から高齢者まで、便秘に悩んでいる人は多いです。子どもの便秘はやっかいで、便がたまって痛がり、お腹がパンパンに張って痛がり、硬い便で肛門が切れて痛がります。自分で便をきばるのも上手にできないこともあります。小児外科では、便秘の子どもの治療もしています。

便秘の治療

(1)浣腸

グリセリン浣腸液をお尻から入れます。便をすべりやすくする作用と腸の動きを良くする作用があります。新生児から使用できます。

(2)内服薬(緩下剤)

便をやわらかくしたり体積をふやすことで便を出やすくします。

(3)内服薬(漢方薬)

腸の動きを活発にすることで便を出しやすくします。

(4)摘便

肛門近くで硬い便がとどまり出てこない場合は、指を入れて便をかき出します。

(5)洗腸

温めた生理食塩水をお尻から注入したり出したりしながら、便を溶かして出します。

がんこな便秘の治療

通常は浣腸や内服薬で治療を始めます。しかし、便秘が長期間続いていると硬い大きなかたまりができることがあります。これはなかなかやっかいで、しばらく入院し、摘便や洗腸を繰り返して便のかたまりをくずす必要があります。

手術が必要な便秘

(1)糞便性腸閉塞(糞便性イレウス)

定期的な排便ができないと多量の便がつまって通過ができなくなります。この状態が腸閉塞で、浣腸や内服薬で改善しないと手術が必要になります。大腸を切り開いて便を取り出すだけでなく、一時的な人工肛門が必要になる場合もあります。

(2)ヒルシュスプルング病

生まれつき腸の一部の範囲に神経がなく、この部分で腸が動かなくなる病気です。動かない部分で便が停滞するためその前の腸内に便がたまってしまいます。また、おならも移動できず、腸がパンパンにふくれます。ヒルシュスプルング病には、必ず手術が必要です。手術で神経のない部分を切除し、肛門へ腸をつなぎます。
ヒルシュスプルング病はほとんどの場合は新生児から乳児期に診断されますが、神経のない範囲が短い場合は診断が遅れ、徐々に腸の拡張が進み初めて見つかる場合もあります。

医師紹介

小児外科副部長 加藤 久尚

小児外科副部長

加藤 久尚(かとう ひさたか)

[出身大学]
京都府立医科大学
[専門医等]
日本小児外科学会小児外科専門医
日本外科学会外科専門医
[所属学会]
日本小児外科学会
日本外科学会
日本小児血液・がん学会
日本周産期・新生児学会

[応援]田尻 達郎 九州大学 教授

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